喫漢方薬去~漢方薬をご一服

麻黄湯(まおうとう)をご存じですか

本格的な寒さが到来し、外気の乾燥はもちろん室内も暖房で空気が乾燥すると、風邪やインフルエンザにかかる方が増えてきます

インフルエンザは罹患してすぐは確定の診断ができないために、治療薬が処方されない場合があることから、証(その薬方が有効な症状)が合えばすぐに服用できる麻黄湯が最近注目されてきています

 

 

麻黄湯という処方(レシピ)は四つの生薬を使います

生薬文字
麻黄湯

 

   麻黄(まおう)   :マオウ科マオウの地上部

   杏仁(きょうにん) :バラ科のホソバオケラの根茎

   桂枝(けいし)   :南中国またアンズ子仁

   甘草(かんぞう)  :中国産マメ科のカンゾウの根

以前にお話ししましたが、麻黄湯という名前は主薬である麻黄から命名されたものです

たった四味からなる薬方ですが、煎じ薬で服用すると一日分で症状のピークは過ぎたと実感できるくらい切れ味の良い薬方です

 

麻黄湯はどんな症状に効くのか

麻黄湯の薬方は、漢方最古の古典である『傷寒雑病論』(しょうかんざつびょうろん)に記されている代表的な条文は以下のものです

太陽病、頭痛発熱、身疼腰痛、骨節疼痛、悪風、無汗而喘者、麻黄湯主之。

(太陽病、頭痛発熱し、身疼み腰痛み、骨節疼痛し、悪風し、汗無くして喘する者は麻黄湯之を主る)

太陽與陽明合病、喘而胸満者、不可下、麻黄湯主之。

(太陽と陽明との合病にて喘して胸満する者は、下すべからず。麻黄湯之を主る)

傷寒脈浮緊、不発汗、因致衂者、宜麻黄湯。

(傷寒脈浮緊にして、汗を発せず、因て衂を致す者は、麻黄湯に宜し。)

 

陽明病、脈浮、無汗而喘者、発汗即愈、宜麻黄湯。

(陽明病、脈浮、汗無くして喘する者は、汗を発すれば即ち愈湯、麻黄湯に宜し。)

「傷寒雑病論」に出てくる薬方の条文をまとめ、方意を示した「類聚方」(吉益東洞 著)の「方極」には以下のように記されています

治喘而無汗、頭痛、発熱、悪寒、身體疼痛者

(喘して汗無く、頭痛、発熱、悪寒、身体疼痛する者を治す)

悪寒がして、熱が高く、頭痛がして、体の節々が痛み、ゼイゼイ喘息のような咳が出たり鼻がつまるような症状を発汗して治癒へ向かわせます

発熱や悪寒がなくても、次のような症状に使う機会もあります

・乳児が風邪をひいて鼻をつまらせ母乳を飲めないとき

・お腹が張っているような小児の喘息症状

・ひきつけ、ガス中毒、失神、麻疹

・喘息発作で、あぶら汗がにじみ出るようなもの

・お腹が張っているタイプの子供の夜尿症

 

麻黄湯に似た処方で、傷寒雑病論の『金匱要略』の雑療方第二十三に「還魂湯(かんこんとう)」という薬方があります

「救卒死客忤死還魂湯主之方 麻黄・杏仁・甘草」

すなわち、仮死状態の時に使用せよということです

現代ではすぐに救急病院に搬送ですが、このような状態にも漢方薬で対処していたのは驚きですね

 

漢方エキス製剤の添付文書の効能・効果には以下のように記されています

高熱悪寒があるにもかかわらず、自然の発汗がなく、身体痛、関節痛のあるもの、あるいは咳嗽や喘鳴のあるもの。

感冒、鼻かぜ、乳児鼻詰まり、気管支喘息。

コタロー漢方製剤の添付文書より引用

 

麻黄について

麻黄は、華北モウコ産のマオウ科マオウの地上部で、渋くて苦く、かむと下に麻痺感がします

麻黄という名前から麻(あさ)に関係あると思われがちですが、音通(おんつう)からきています

音通(相通)とは、二字以上の漢字で字音が共通のため相互に代用されることです

ここでは「痲」(しびれる)と「麻」の共通の字音「マ」により、痲黄麻黄と代用されるようになったようです

マオウはシビレる黄色の草という意味なのですね

参考・引用文献:「常用字解」白川静著、「漢方養生談」荒木正胤、戸畑漢方勉強会テキスト

投稿者:

Hinatakaitendo

薬局開設者・管理薬剤師