喫漢方薬去 ~漢方をご一服

半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)をご存じですか

半夏厚朴湯を最近はご存じの方も増えました

同時に知ってるけど「何と読むかがわからないが夏なんとかという漢方薬飲んだら咳が良くなったのだけど」とおっしゃる方が多いようです

今回はそんな半夏厚朴湯についてお話したいと存じます

半夏厚朴湯という処方(レシピ)は五つの生薬を使います

生薬文字 半夏厚朴湯

 

   半夏(はんげ)   :サトイモ科カラスビシャクの塊茎

   茯苓(ぶくりょう) :マツの根に生じるサルノコシカケ科ブクリョウの菌核

   生姜(しょうきょう)ショウガ科のショウガの根茎

   厚朴(こうぼく)  :モクレン科植物の樹皮、あるいはホウノキの樹皮

   蘇葉(そよう)   :シソ科のシソの葉

 

半夏厚朴湯はどんな症状に効くのか

半夏厚朴湯の薬方は、漢方最古の古典である『傷寒雑病論』(しょうかんざつびょうろん)の慢性的に推移している病の篇『金匱要略』の「婦人雑病脈証併治第二十二」にあります

婦人、咽中如有炙臠、半夏厚朴湯主之

(婦人、咽中に炙臠有るが如きもの、半夏厚朴湯これを主る)

「傷寒雑病論」に出てくる薬方の条文をまとめ、方意を示した「類聚方」(吉益東洞 著)の「方極」には以下のように記されています

治咽中如有炙臠、或嘔、或心下悸者

(咽中に炙臠有るが如く、或は嘔し、或は心下悸する者を治す)

「咽中炙臠(いんちゅうしゃれん」とは、のどのあたりに炙った肉が張り付いているような感じがすることをさしています 気の鬱滞により起こり「梅核気(ばいかくき)」(梅干しのたねがのどにあるような感じ)とも言われます

この咽中炙臠を目標に、婦人に限らずいろいろな病気に応用されます

神経衰弱、ヒステリー、血の道症、不眠、ノイローゼ、うつ症状、食道狭窄症、胃下垂、胃アトニー、妊娠悪阻、月経不順、気管支炎、喘息、バセドー病、声枯れ、風邪の後の咳など

この処方が合う方は、手足や顔がむくむタイプが多いようです

漢方エキス製剤の添付文書の効能・効果には以下のように記されています

精神不安があり、咽喉から胸元にかけてふさがるような感じがして、胃部に停滞膨満感があるもの。

気管支炎、嗄声、咳嗽発作、気管支喘息、神経性食道狭窄、胃弱、心臓喘息、神経症、神経衰弱、恐怖症、不眠症、つわり、その他嘔吐症、更年期神経症、神経性頭痛

コタロー漢方製剤の添付文書より引用

このようにのどが腫れたあとや実態がなくてものどに違和感があるものに幅広く使えます

また胃腸や循環器、婦人科系の症状の処方に半夏厚朴湯を合わせて、気の鬱滞からくる症状の緩和に用いる機会があります

小柴胡湯に半夏厚朴湯を合わせた柴朴湯(さいぼくとう)などがそのひとつです

半夏(はんげ)のお話

漢方薬の方剤の名前には、構成している生薬すべてや主要な生薬の名前、方剤全体のイメージ、効能、それが使われていた地域や歴史的なことから由来しているという話を前回させていただきました

半夏厚朴湯は、構成している主要な生薬である「半夏」と「厚朴」から由来しているといってよいでしょう

このひとつ半夏(はんげ)についてのお話をしましょう

カラスビシャク

 

「半夏」は、カラスビシャクの塊茎を乾燥したものの生薬名です

『漢方養生談』(荒木正胤著)には、「悪心して嘔吐するを治す。かねて胃内停水、腹中の雷鳴、咽喉の腫痛、咳の出るものを治す。」とあります。

カラスビシャクはヘソクリという別名があります 塊茎がいかにもおへそをくりぬいた形をしていることから来たのとカラスビシャクを売ってこっそりお金を貯めたことから来たという話です

昔、農家の嫁は取りがたい草を掘り、つわりの薬である半夏を集めて妊娠に備えることが美徳とされた。ところがその嫁は集めた半夏を薬屋に売って、自分のお金を貯めるのに懸命であった。これがヘソクリの語源である。

『月刊 漢方療法ー中国の生薬⑪半夏』木村孟淳 著より引用させていただきました

 

半夏という生薬名からカラスビシャクと間違われやすいものに「半夏生(ハンゲショウ)」があります これはドクダミ科の植物で、名前の由来は葉の一部を残して白く変化する様子から「半化粧」とする説と花が咲く時期(半夏生)からという説があります

ハンゲショウ

 

二十四節気の夏至(6/21~7/6頃)のうち七十二侯の末侯は半夏生(はんげしょうず)と言われてます

ちょうどこの時期に、カラスビシャクとハンゲショウの開花時期が重なることからどちらも「半夏」というようになったのではないかと言われています

時候の半夏生は夏至からかぞえて11日目ですが、現在では黄道100度の点を太陽が通過する日とするので今年は7月2日になります

この時期、関西では田植えを終えて豊作を祈るお供えにささげたことからタコを食べ、香川では小麦の収穫を祝ってうどんをうって食べる風習があるそうです

 

これから半夏生にむかって、気温や気圧も上昇するため、からだをめぐる氣の流れも乱れがちになります そのような時に半夏厚朴湯は心強い味方になります