五苓散(ごれいさん)をご存じですか
内服する漢方薬の剤形には、煎じ薬の他に散剤、丸剤というものがあります
煎じ薬は生薬を水から煮出して作る「○○湯」と言われるものです
散剤は乾燥した生薬をそのまま挽いて粉末にしたもので「○○散」と言われ、丸剤は散剤を蜂蜜で練って丸くしたもので「○○丸」と言われます
➡各剤形の例・・・煎じ薬:葛根湯、散剤:五苓散、丸剤:桂枝茯苓丸
今回は散剤のひとつである五苓散(ごれいさん)のお話です
*五苓散料(ごれいさんりょう)というのは、五苓散の生薬を粉砕せず、煎じ薬として煮だしたものです 散剤と同等の効果があると言われています
五苓散という処方(レシピ)は五つの生薬を使います
猪苓(ちょれい) :サルノコシカケ科のチョレイの全体
沢瀉(たくしゃ) :オモダカ科のサジオモダカの塊根
茯苓(ぶくりょう) :マツの根に生じるサルノコシカケ科ブクリョウの菌核
蒼朮(そうじゅつ) :キク科のホソバオケラの根茎
桂枝(けいし) :南中国またはベトナム産のクスノキ科植物の皮
五苓散はどんな症状に効くのか
五苓散の薬方は、漢方最古の古典である『傷寒雑病論』(しょうかんざつびょうろん)に記されている代表的な条文は以下のものです
太陽病、発汗後、大汗出、胃中乾、煩躁不得眠、欲得飲水者、少少與飲之、令胃氣和則愈。若脈浮、小便不利、微熱消渇者、五苓散主之。
(太陽病、発汗して後、大いに汗出で、胃中乾き、煩躁して眠るを得ず、水を飲むことを得んと欲するものは、少少与えて之を飲ましめ、胃氣を和せしむれば則ち愈ゆ。若し脈浮にして、小便不利し、微熱ありて消渇するものは、五苓散之を主る)
中風、発熱六七日、不解而煩、有表裏證、渇欲飲水、水入則吐者、名曰水逆。五苓散主之。
(中風、発熱六七日、解せず而して煩し、表裏の証有り、渇して水を飲まんと欲し、水入れば則ち吐く者は、名づけて水逆と曰う。五苓散之を主る)
「傷寒雑病論」に出てくる薬方の条文をまとめ、方意を示した「類聚方」(吉益東洞 著)の「方極」には以下のように記されています
治消渇、小便不利、或渇欲飲水、水入則吐者
(消渇、小便不利、或は渇して水を飲まんと欲し、水入れば則ち吐す者を治す)
「消渇(しょうかち)」とは、のどが渇いて水を飲み続けても小便が出ない状態をいいます
のどが渇いて水を飲み続けても小便が出ないか、あるいは水を飲みたいのだけど飲むとすぐに吐いてしまうのを目標に、いろいろな病気に応用されます
ネフローゼ、腎炎、糖尿病、胃下垂、急性胃腸炎、小児の吐乳、結膜炎、陰嚢水腫、てんかん、乗り物酔い、二日酔、頭痛、偏頭痛、皮膚病など
漢方エキス製剤の添付文書の効能・効果には以下のように記されています
のどがかわいて、水を飲むにもかかわらず、尿量減少するもの、頭痛、頭重、頭汗、悪心・嘔吐、あるいは浮腫を伴うもの。
急性胃腸カタル、小児。乳児の下痢、宿酔、暑気当たり、黄疸、腎炎、ネフローゼ、膀胱カタル。
コタロー漢方製剤の添付文書より引用
五苓散という薬方名は「五物猪苓散」の略で、三味の猪苓散、猪苓湯という薬方もあります
五苓散:猪苓、茯苓、朮、沢瀉、桂枝
猪苓散:猪苓、茯苓、朮
猪苓湯:猪苓、茯苓、滑石、阿膠、沢瀉
夏のお出かけには五苓散♪
夏は、汗を大量にかき、水分を多くとる一方、冷房で冷えたり、ビールやアイスクリームの食べ過ぎで胃腸の機能も低下したりもします
また涼を求めて、夏山登山や山歩き、旅行などに行かれる方もいらっしゃることでしょう
そんなときに五苓散が活躍したエピソードをご紹介します
*炭酸飲料と下痢の無限ループからの脱出
暑さで食欲も落ちるけど、のどはかわいてしょうがないので、麦茶を飲んでいた学生さん。もっとすっきりしたいのと夏バテのせいか甘味も欲しくなり、炭酸飲料をがぶ飲みするようになりました。ところがますます食欲がなくなり下痢をする、体から水分がなくなるので、また炭酸飲料を飲む、下痢をするを繰り返し、体力もおちていきました。そこでまずは炭酸飲料をやめてもらい、五苓散を服用したところ、下痢がおさまってきだし、食欲も少しずつ回復しました。下痢止めや胃腸薬を飲んでも脱出できなかった炭酸飲料⇔下痢のループが漢方薬で効果あるとはと驚いていました。
*夏の山歩きのおともに
夏になると「五苓散をください」とご指名で薬局に来られる何人かの方がいらっしゃいます。皆様、お元気で活動的な感じがするので、服用される理由をおたずねしてみました。「夏になると少し高地の山歩きをするのですが、仲間から常備薬にすすめられました。乗り物酔いをしやすく、飛行機や新幹線に乗ると気圧の変化からか気分が悪くなるのですが、これを飲むといいみたいです。」
*前世はチベットの僧侶!?
チベット仏教の聖地ラサにあるポタラ宮殿に行かれる方の高山病対策のひとつとして五苓散をお渡ししたことがあります。ポタラ宮殿は、標高3700mに位置し、富士山と同じレベルだそうです。少しずつ高さに慣らしながらの行程だったそうですが、同行メンバーが次々と高山病でダウンする中、その人は五苓散を飲みづづけて一度もダウンすることなく、元気でポタラ宮殿まで行き、貴重な経験ができたそうです。チベット人のガイドから「あなたはほんとはチベット人ではないか?」と驚かれるほどだったそうです。