小青龍湯(しょうせいりゅうとう)をご存じですか
葛根湯の次に知名度が高い漢方薬と言えば、小青龍湯ではないでしょうか
この処方が脚光を浴びるようになったのは、鼻水がたらたらと出る花粉症の症状に使われるようになってからですね
こちらもエキス細粒剤で飲む機会が多いため、何種類の生薬が入っているのかご存じの方は少ないのではないでしょうか
今回はそんな小青龍湯についてお話したいと存じます
小青龍湯という処方(レシピ)は八つの生薬を使います

麻黄(まおう) :マオウ科のマオウの地上部
芍薬(しゃくやく) :キンポウゲ科のシャクヤクの根
桂枝(けいし) :クスノキ科の植物の皮
生姜(しょうきょう):ショウガ科のショウガの根茎
甘草(かんぞう) :マメ科のカンゾウの根
細辛(細辛) :ウマノススクサ科ウスバサイシンの根
五味子(ごみし) :モクレン科チョウセンゴミシの果実
半夏(はんげ) :サトイモ科カラスビシャクの塊根
若草色の文字は桂枝湯(けいしとう)という「漢方薬の祖」と言われる処方の生薬です
小青龍湯は桂枝湯から大棗を除き、麻黄、細辛、五味子、半夏を加えた処方となっております
小青龍湯はどんな症状に効くのか
漢方最古の古典である『傷寒雑病論』(しょうかんざつびょうろん)の小青龍湯は以下のように記されています
傷寒、表不解、心下有水気、乾嘔、発熱而喘、或渇、或利、或小便不利、少腹満、或喘者、小青龍湯主之
(傷寒、表解せず心下に水気有り、乾嘔し発熱して喘し、或は渇し、或は利し、或は小便利せずし、少腹満し、或は喘するもの、小青龍湯之を主る)
咳逆倚息、不得臥、小青龍湯主之 『痰飲咳嗽病脈証併治第十二』より
(咳逆倚息し、臥するを得ずるもの、小青龍湯之を主る)
「傷寒雑病論」には他にも小青龍湯に関する条文がいくつかあります
その「傷寒雑病論」に出てくる薬方の条文をまとめ、方意を示した「類聚方」(吉益東洞 著)の「方極」には以下のように記されています
治咳喘上衝頭痛発熱悪風乾嘔者
(咳喘、上衝、頭痛、発熱、悪風、乾嘔する者を治す)
みぞおちのところが張って、背中や手足が冷え、尿利が減少するのを目標に、気管支炎、気管支喘息、季節ごとにおこる咳嗽、喘息、鼻炎など水様の痰や鼻水、くしゃみを出し、顔の浮腫むものや、反対に尿意をしきりにもよおす者に使われます
この処方が合う方は、鼻水が透明で水っぽく、たらたらと流れ出て止まらないのがひとつの目安になります
漢方エキス製剤の添付文書の効能・効果には以下のように記されています
下記疾患における水様の痰、水様鼻汁、鼻閉、くしゃみ、喘鳴、咳嗽、流涙
気管支炎、気管支喘息、鼻炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、感冒
コタロー漢方製剤の添付文書より引用
小青龍湯は、鼻水がたらたら出ている時に服用すると、わりと早く症状が落ち着いてきます
漢方薬は長い期間服用しないと効果がないという印象をお持ちの方が多いと思いますが、小青龍湯はその印象をくつがえす漢方薬のひとつでしょう
花粉症など季節変化によっておこるものは、小青龍湯を服用した後、その症状を引き起こしやすくしている生活習慣の見直しをしたり、それを助ける漢方薬を服用することをおすすめします
小青龍湯は春の守り神
漢方薬の方剤の名前には、構成している生薬すべてや主要な生薬の名前、方剤全体のイメージ、効能、それが使われていた地域や歴史的なことから由来しています
例えば
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
茯苓(ぶくりょう)・桂枝(けいし)・朮(じゅつ)・甘草(かんぞう)から構成
葛根湯(かっこんとう)
葛根・麻黄・生姜・大棗・桂枝・芍薬・甘草から構成
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
人参・白朮・黄耆・当帰・陳皮・大棗・柴胡・乾姜・升麻から構成
胃腸(おなか:中)の滋養を補い、氣を益すという意味
といったものです
小青龍湯という名前は、古代中国の風水の「四神相応(しじんそうおう)」から来ていると言われています
上図はアロタン(アロマテラピーの語源のお話)のサイトより引用させていただきました
古代中国では都や重要な街を作るときに、背後に山、前方に海、湖沼、河川の水(すい)が配置されている背山臨水の地を、左右から砂(さ)と呼ばれる丘陵もしくは背後の山よりも低い山で囲むことで蔵風聚水(風を蓄え水を集める)の形態とする風水の観点をとりいれていました
この東西南北の守りを四神と呼び、背後の山が玄武、前方の水が朱雀、玄武を背にして左側の砂が青龍、右側が白虎という四禽(動物)に例えました
以上Wikipediaより抜粋引用させていただきました
この観点は漢方薬にも取り入れられ、以下のように配せられています
北:玄武:冬:黒:真武湯(玄武湯);附子の黒い色から
南:朱雀:夏:赤:十棗湯;大棗の赤い色から
西:白虎:秋:白:白虎湯;石膏の白い色から
東:青龍:春:青:小青龍湯;麻黄の青い色から
春の季語である東風(こち)が吹いて、早春の風の寒さから、冷えのある方が鼻水が出だす時には小青龍湯を服用する、とうまくつながりますね
ちなみに青龍の名を持つ漢方薬に大青龍湯(だいせいりゅうとう)というものがあります
麻黄、桂枝、甘草、杏仁、生姜、大棗、石膏から構成されており、発熱・悪寒・身体疼痛するも発汗できず煩躁する状態の者に使われます